控えめに言って犯罪者
やあみんな! 元気? 私あんま元気じゃない。毎度お馴染みスイ・レアだよ!
今回はちょっと運悪くMSのスピード違反で捕まって、教習を受けることになっちゃったよ! ていうかMSって速度制限とかあるんだね、始めて知ったよ!
これ作業用MSなら制限かけていいと思うけど、戦争の時はどうするのかな? 速度制限とか守ってたらその場でお花畑が見えてくるんですけど!
しかも当時乗ってたのHi-νガンダムでバリバリ戦闘用のMSだったんだけどな。さあこれから戦闘しようってときに警察にスピード違反で捕まった私の気持ちを考えてよ、うっかり警察も撃ち落としそうになっちゃったわ。
まあ切符(?)切られてしまったのは仕方ないし、MSに乗れなくなるのは困るからね。わざわざ有給とってお勉強しに来たよ。
……そして、運があるのかないのか、ていうか縁があるのかないのか、隣にはなぜか刹那・F・セイエイがいる。
刹那も捕まったのかと聞くと、どうやら潜入捜査らしい。せっさんも大変だね。
「諸君!朝の挨拶、すなわち『おはよう』という言葉を、謹んで贈らせてもらおう」
……。
………………!!?
「ぐ、グラハム・エーカー!!?」
「違う! 今の私はハム先生だ」
今はってことは確実にグラハ・エーカーだろお前!! 正体隠す気ない仮面すら着けてないから、バレバレすぎるんですけど!!
ていうかハム先生という名前自体正体隠す気さらさらないだろ!!
「あんたパイロットじゃないの!? 少なくとも教習の講師とかする立場じゃないだろ!!」
「ふっ、簡単なこと。暇だったのでたまたま今日の教習内容を覗き込んだら、好みの少年がいたのでな。教師に言って無理矢理変わってもらった。つまり、職権濫用だ」
ここまで堂々と職権濫用宣言するとか、なんて奴だよこいつ。ていうか暗に自分がグラハムだって認めてるし。
刹那も隣で声や表情には出してないもののめっちゃくちゃ驚いてる。冷や汗出てるし今のど鳴らしたもん。ごくって音こっちまで聞こえたもん。
うわ、どうすんのこれ、刹那の任務もだけど絶対普通に教習終わらないやつだよ。なんでこう絶妙なタイミングで当たっちゃうかなああああ。
「さて、授業を始める前に言っておくことがある。私は男色家だ」
アイェェェェェ突然のカミングアウト!!
なにさらっととんでもないこと言ってんのこの変態! つーかガンダム公式ホモ多すぎだろ!(例・女装好きのどっかの御曹司)
最初からクライマックスすぎる!!
「私はそこにいる少年に興味を持ったから今この教壇に立っている。他のものは興味がないから授業をする気もない。早々にここから立ち去るがいい」
「とんでもない先生だなこいつ!」
グラハム・エーカー(ハム先生)はガチで私のことなんてどうでもいいらしい。私のことを無視し、刹那の方を向きながら授業を始めた。
「さて、さっそく授業に入ろうか。簡単なシミュレーションだ。MSを運転中に反対側からMSがやって来てぶつかりそうになった。そういう場合、どのような行動を取ることが正しいかな?」
まるで子供をあやすかのように、とても優しい声で問いかけるグラハムことハム先生。正直、ちょっと気持ち悪い。下心見え見え過ぎてだいぶ気持ち悪い。
刹那はそんなグラハムことハム先生に臆することなく、いつもの無表情顔で淡々と答えた。
「避ける、または一時停止する」
まあ、車でもMSでも、だいたいの一般回答はこれだよね。それか速度を少し緩めるか。
「ふっ、なかなか良い回答をする少年。だが答えはNOだ!」
とても良い笑顔で刹那の回答全否定しやがった。NOの所でびしっと刹那を指差す子芝居までやってのけるし。この人こういう芝居がかったこと好きだな。
「正解は『パイロットが少年であればコクピットを避けMSを破壊し、コクピットを速やかに回収する』だ」
はいアウトォォォォォォォォォ!!!!!
なにとんでもないこと言い出してんのこの人! 回収して何するつもりなんだよ!
「無論、ナニだ」
「人の心を読むな変態!!!」
なんでもありかよこいつ! いやドヤ顔すんなウザイから!! なんの自慢にもなりゃしねえよ、とっとと警察に出頭しろよ変態!
私がぶつけようのない苛立ち諸々と葛藤していたら、刹那が静かに手を挙げた。この状況で冷静でいられるとか刹那どんだけ。
「相手が少年でなければどうする」
「速攻で破壊する」
いや駄目だろそれ、完全に通り魔だよ。農業のおじちゃんとか通ったらどうするんだよかわいそうすぎるだろ。
「ていうか、外側からコクピット見えないのにどうやってパイロットが少年かどうか判断するんですか」
「小娘は黙っていろ。私はそこの少年と授業をしているのだ」
ハム先生がぴしゃりと言い放った。まるで私のことを汚物でも見るような目で睨んでる。
さっきは人の心のなかに勝手に入ってきたくせに、なんでAEUはこの犯罪者放っておいてんの。もっと厳重に隔離しないといつか本当に犯罪犯すぞ。
「だが少年のために答えてしんぜよう。そんなもの、勘に決まっている」
「いやいやいや!! いい加減にしてください! そんな運転してたら速攻牢屋行きですよ! ちゃんと授業やってください!」
いや、まともな回答が帰ってくるとは思わなかったけれども!
こっちだって貴重な有休使ってわざわざ教習来てんだからさあ! どうせならこの休みをもっと有意義に使いたかったわ! ショッピングに美味しいご飯食べに行ったり女友達とキャッキャウフフしたかったわ!
「ええいさっきから鬱陶しい! 私はそこの少年と授業をしている、君に教えるものは何もない。早々にここから消えろと先程も言ったはずだが!?」
「こっちは授業料払ってるんですよ!? 印鑑もらわないと帰れませんよ!」
「なら印鑑も押す! 授業料も返そう! だから早くこの空間から消え去れ! そして私と少年を二人きりにさせるんだ」
「ええ、ええ。言われなくても出ていくわこんな所!」
1秒だって長く居たくないわこんな所!
乱暴に椅子から立ち上がり早々にこの場から出ようとしたとき、刹那が私の服の裾をグッとつかんだ。
離して刹那、そう言おうと彼を見て、私は固まってしまった。
刹那の目が、私に行くなと訴えている。いやニュータイプとかイノベイダーとかじゃなくてもわかる。『俺は貞操を失いたくない』って必死で懇願している。今にも顔から血の気が引きそうなくらいだ。
ハム先生とは違う形で目がガチだ。こんな刹那見たことがないくらいガチだ。
………………。
……確かに私がいなくなると、この空間にいるのは刹那とハム先生のみ。今のハム先生だったら刹那を押さえ込むのは容易いだろう。つまり、彼の貞操が奪われるのは確実だ。刹那もそれを十分理解している。
それは……うん、それはさすがにかわいそうだ。
沸き上がる怒りを押さえ込み、私は静かに席についた。
「ふっ……そんなに私と二人きりになるのが恥ずかしいか少年。愛らしいな」
「なんで隔離されてないのこの人」
後日、やっぱりハム先生は色々とやらかして1週間謹慎処分を受けた。